横浜国立大学 大学院工学研究所システム 髙木 洋平先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

水や空気の流れを明らかにし
制御する技術の開発が
社会貢献につながっていく

横浜国立大学大学院 工学研究院 准教授
髙木 洋平 先生


船の受ける流体抵抗や南海トラフ地震が起こった場合の津波被害を
コンピュータ上で再現・予測する

私は流体力学、さらに細かく分類すると乱流に関する研究を行なっています。最近では、スーパーコンピュータ富岳を用いたコロナ飛沫の流体シミュレーションが報道されるなど、流体力学という言葉自体はご存知の方が多いかもしれませんが、簡単に説明すると、水や空気などの流体が動く様子、すなわち流れを明らかにすることです。
流れの様子を数学的に表せるナビエ・ストークス方程式というものがありますが、これは紙と鉛筆を用いて解くことができないため、多くの研究者が流れの様子を調べる手法を開発し、開発した手法を用いて様々な流れを調べています。私が日頃行っているのは数値流体力学(Computational Fluid Dynamics, CFD)というコンピュータを用いて流れの様子を再現する数値シミュレーションです。先述のナビエ・ストークス方程式をコンピュータで解ける形に変更し、プログラムの実行により流れの時間変化を調べます。数値シミュレーションはスーパーコンピュータを利用しても時間がかかるため、プログラムを改良して高速かつ精度の高い計算ができるよう工夫しています。なお、現在所属している学科が船舶海洋工学であるため、船舶まわりの流れや、海洋で見られる流れに関する研究を行うことが多いです。数値シミュレーションの利点は、簡単には実験できない流れをコンピュータ上で再現または予測することです。新しく開発する船がまわりの水から受ける流体抵抗の評価や、南海トラフ地震が起こった場合の沿岸域の津波被害予測なども行っています。

身近で親近感が湧くが
本質的なところは学問的

私は子供の頃から釣りが好きで、海や川によく釣りに行っていました。魚が全く釣れなくても、海や川の水面を見ていると気持ちが穏やかになり、おそらく流れの様子を見るのが好きだったのだろうと後から気づきました。大学は機械工学コースに入学し、学びの中心はいわゆる四力学(機械力学、材料力学、熱力学、流体力学)でしたが、この中で流体力学が一番自分にしっくりきて熱心に学んでいました。流体現象は身近で見られて親近感が湧きますが、本質的なところは目には見えず数式を解いたり調べたりしないとわからない、といった学問的性質が性に合っていたのだと思います。4年生からは流体力学、特に乱流を研究する研究室に所属し、現実には存在しないような理想的な流れ場をスーパーコンピュータで解いて乱流の基礎研究を行ない、その重要性・面白さを実感しました。卒業後は工学的に重要な流れ場の数値シミュレーションも行うようになり、流体の本質を見極める研究と、応用につながる研究をリンクするスタイルが確立できようになりました。

滝壺に落ちた水の流れを
科学的に見えるようにする

私たちの身の周りでは、流れの速度が大きくなると流れが複雑に乱れた乱流という現象になります。例えば滝壺に落ちた水の流れを観察すると、複雑な水の流れがランダムに発生しているように見え、そこに何か決まった法則があると思われません。しかし、乱流を構成している流体が渦巻く運動(渦運動)をその大きさごとに分類し、さらに統計的な手法を用いて流れの様子を解析すると、ある法則が見えてきて、乱流や流れの本質に迫ることができます。すなわち、目で見ないもの(法則・性質)を科学的なアプローチによって見えるようにするのがこの研究の面白さと言えます。
流体力学は、機械、航空宇宙、船舶海洋、建築などいろいろな学科・コースで教えられており、分野横断型の学問といえます。個々の研究者の応用分野は異なりますが、流体力学の講演会・研究集会で議論を行うとみんな流れが好き、ということがわかり一層流体研究にのめり込んでいくのが実感できます。また、流れの性質を知ることによって流体制御技術の開発が実現するなど、自分の研究が世の中に役立つことに、やりがいも感じます。例えば船舶の船体表面に塗布する塗料に防汚性以外の機能を持たせることにより、流体抵抗を減らして燃費を良くする研究を行なっていますが、この研究成果の活用により船舶からの温室効果ガス削減に貢献することができるのです。

髙木先生からのメッセージ

私は実家が自動車整備工場で、小さい頃から機械いじりや工作が好きでした。そのような生い立ちから大学では機械工学を学び、ものづくりの現場で活躍しようと思っていましたが、流体力学という学問体系に遭遇し、流体現象を調べる面白さを実感して現在の研究・教育活動を行っています。航空機や船など実際のものを開発したい、と工学系を選択される方も多いと思いますが、途中で様々なことを学んでいくうちに、違う学問体系に興味を持たれたり、入学時の希望とは異なる方向にキャリアを目指したりしても問題ないと思います。ただし、1つ得意なことまたは興味を持ち続けられることを学生のうちに見つけられると、その後の社会人生活においてどのような立場・境遇になっても乗り越えていけます。私は流体力学が好き、現象やものごとの本質を探究するのが好き、というのが自分の中にずっとあったのでここまで来られています。皆さんも若いうちに何か大切なものを1つだけでも良いから見つけてください。

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