Interview
脳に損傷がある人がより良い生活を送るために
専修大学 人間科学部 教授
岡村 陽子 先生
臨床神経心理学で脳に障害がある人の
問題を明らかにし支援する方法を考える
脳に損傷がある人の研究から、脳の機能と心の働きを結び付けて考える学問を神経心理学と言います。その神経心理学を臨床で応用する学問領域が臨床神経心理学で、私はこれを専門としています。具体的には、様々な原因から脳に損傷がある人の問題をどのような神経心理検査を使って明らかにし、その人にどのような心理的な支援をしていくとよいのかを研究しています。脳に損傷がある人の問題というのはイメージしにくいと思いますが、一般的には高次脳機能障害と言われるものになります。それには色々な障害があり、新しいことを覚えることが難しくなる記憶障害、複数のことに注意を向けたり注意を切り替えたりすることが苦手となる注意障害、計画を立てたりすることが困難となる遂行機能障害、言葉に関する機能が失われる失語、認知機能が失われる失認、行動がうまくできなくなる失行といったものがあります。私はその中でも、遂行機能障害や注意障害、記憶障害などに興味があります。これまで、VR環境を利用した遂行機能検査の日本版開発や、高齢者への認知リハビリテーショングループの効果研究を行ってきました。どうしたら高次脳機能障害がありながらも、より良い生活が送れるのかを考えるために、より使いやすい神経心理検査や効果的な認知リハビリテーションの提供を目指しています。
かつて試行錯誤した障害児の
家庭教師経験が神経心理学と結びつく
私は障害をもつ家族がいることから、もともと障害者への心理的支援に興味関心をもっていました。特に最初は障害児支援に興味があり、大学時代には少しでも障害をもつ人の支援につながればと交通事故の後遺症で高次脳機能障害をもった子の復学支援のために家庭教師をしたことがあります。その時に試行錯誤して苦労した経験が、大学院進学後に出会った神経心理学と結びついて、理論的な背景を理解した上で支援を考える重要性と面白さを知りました。それが今の研究につながっています。
科学的に心理的支援を考える
面白さとやりがいを伝えていきたい
脳という生理的な機能を理解することで、人の心や行動に現れる問題を理解できることに、この研究の面白さを感じます。心理学というと、不確かな見えない心を扱う学問というイメージがあるかと思いますが、臨床神経心理学は、脳の機能や、疾患や障害の性質が脳機能に与える影響を理解した上で、検査データや背景情報を総合的に判断し、その人の抱える問題を明らかにします。かなりシステマティックで理論的なのです。エビデンス(根拠・証拠)をきちんと押さえて心理的支援を考えるという部分はとても科学的で、そうした理系的な関わり方は面白いです。そして、自分の研究したことや自分の持っている知識や技術が、人の役に立つという喜びをダイレクトに感じることができることに、やりがいも感じます。最近は、こうした領域で働く人の資格である臨床神経心理士ができましたが、日本ではまだまだ新しい領域なので貴重な存在です。国際的には専門性の高い確立した資格ですので、臨床神経心理士として働ける心理を育てていきたいと思っています。そのために、国内外の資格の比較や、養成に必要なカリキュラムについても研究しています。できるだけ多くの人に、神経心理学を使って臨床で人を支援する面白さと意義を伝えたいです。
今の大学の研究は多領域にわたる学際的な研究も多く、自分のしたいことをするのに、必ずこの学部に行かなければいけないということはないように思います。大学や教員によって何を専門にしているのかだいぶ違いますので、時間があるときに、ホームページやガイド本などをしっかり読み込んで、どういう領域があってどんなことができるのか調べてみると良いかと思います。私は自分が高校生の時に行きたかった学部とは違う学部に入ったのですが、結果的に今は自分がやりたかったのはこういうことだったと思う研究ができています。自分がやりたいこと、自分の好きなことを自分の中でしっかりイメージを作ってそれを追求していけると良いのかなと思います。