Interview
社会の常識をひっくり返していける面白さ
東京大学大学院 総合文化研究科 教授
瀬地山 角 先生
子どものそばには
母親がいなければならないのか?
私の研究は大きくいうと社会学で、その中のジェンダー論です。社会学の中でいうと、比較社会学という研究方法を使っています。社会学というのは、自分が生きている社会が当たり前だと思っていることを、「当たり前ではない!」とひっくり返していくところに面白さがあり、私はそれをジェンダーに関してやっています。
具体的にいうと、東アジアの女性や高齢者の働き方のパターンの違いについて比較しています。例えば日本社会には、「子どものそばには母親がいなければいけない」という考え方が根強くあると思います。しかしこれは日本の中で見ても、大正期の大都市部で生まれたもので、たかだか100年程度の歴史しかないものです。これをさらに東アジアの韓国・台湾・中国・北朝鮮などと比較すると、中国文化圏ではそもそも子どものそばに母親がいなければならないという考えが、日本と比べて大変希薄であることがわかります。ですので、出産育児期に女性が仕事を辞めるという現象が起きません。これは社会主義の影響ではなく、台湾や香港でも同じです。日本では最も女性の働く割合が低くなる30代は、中国文化圏では最も働く割合の高い年齢層になります。同じ社会主義でも北朝鮮は結婚後に主婦になる層が多く、ジェンダーに関する規範が韓国に近いことがわかります。
逆に高齢者の働き方を見ると、日本は世界で最も高齢者自身が就労に積極的な社会で、逆に中国文化圏は東アジアの中では高齢者の就労に大変消極的な社会です。これからの超高齢社会では働く人が減るのですから、働く人を増やす政策を採らなければいけないのですが、その選択肢は3つしかなく、①女性②高齢者③移民です。日本は中国文化圏に比べ、現状では①の女性の労働力化に消極的なのに対し、②の高齢者の活用には大変積極的だということになります。
「東大女子2割問題」
ジェンダー問題は身近なところにも
『東大女子2割問題』という言葉を知っていますか?同じアジアのトップ大学である北京大学やソウル大学では女子学生の割合が4~5割だというのに、日本の東大だけ男女比が8:2なのです。私の講義を聞いて問題意識を持った女子学生が、高校生約4千人に対して行った調査によると、特に地方に住む女子高生の皆さんが、「親元から通え」「浪人するな」という2つの圧力をかけられて、進学先をゆがめられてしまっている傾向にあることがデータとして明らかになり、心を痛めています。日本の高等教育の現場にも、ジェンダーによる差別は明確に存在し、それは決して東大を受験する人たちだけの話ではありません。
男女を問わず、「志望校を受験したい」という気持ちそのものが、そがれるようなことがないようにと願っています。自分の実力を過小評価せず、自己評価を高くし、自信を持って、第一志望の学校を目指してがんばってください。