大学教授
インタビュー
「新時代の材料が
未解決の問題を切り開く」
小柳 潤 先生Jun Koyanagi
東京理科大学 先進工学部 教授
より質の高い材料にするために
私が扱っているのは炭素繊維強化プラスチック(CFRP)というものなのですが、なんといっても軽くて強いのです。少し前まではロケットや衛星といった航空宇宙分野の材料という位置付けでしたが、今はボーイング787に半分くらいCFRPが使われているほど一般的な材料になりつつあり、次は車にも使われるのではないでしょうか。21世紀の新しい材料と言っても良いと思います。その中で私は、数値シミュレーション(コンピュータを使った解析)により、「どういう風に作ればいいか」「作るときにどこが難しいか」「使っているときにどう壊れるか」「より強くするにはどうすれば良いか」などを明らかにして、CFRPの質を上げていく研究をしています。特に「破壊」に関して、独自で「こうなったら壊れる」という条件を見出してシミュレーションに取り込み、新しい見解を世界に発信しています。今の研究をするきっかけは、中学生の時にスペースコロニー(宇宙植民地)という存在を知り、「宇宙に人類が住む」という考えに面白さを感じて宇宙に関心を持ったところから始まります。その頃は宇宙開発事業団(NASDA)しか知なくて、そこに入りたいと思って大学に進んだのですが、じゃんけんで負けて材料関係の研究室に入ることになってしまいました。そうしたら、たまたま「複合材料」という今に繋がる研究対象に出会ってそのままその研究室で博士号まで取り、その後はCFRPが航空宇宙材料だったことが縁で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入って研究していました。
自分のアイディアで世界と勝負する
平たく言うと、新しいアイディアを試せる、チャレンジできるところが私の研究の面白さです。もう少し具体的に言うと、CFRPは炭素繊維とプラスチックでできていて、壊れるときはその2つがそれぞれ壊れていくのですが、さらに「界面」という、2つがくっついている境界の要素も加わると問題が一気に複雑になります。ですので、細かいマニアックな解析が必要になってきますが、それこそがやりがいだと思っています。中でもプラスチックがどう壊れるかということに関しては、新しく「エントロピー基準破壊」というものをシミュレーションに取り込んでいるのですが、この手法は世界に先駆けてやっています。これが解決すれば、世界でも未解決だった“ある負荷を受けたCFRPは無傷に見えるのに、もう一度同じ負荷を受けたときは一気に壊れてしまうことがある”という破壊の予測の問題が解決する可能性があると思うと、とても楽しいです。