英語の正しい勉強法
リーディング
難関大学合格を目指すために、英語の学習でまず重視しなければならないことは何だと思いますか? それは読解力の基礎を固めることです。「いまさらそんな当たり前のことを」と思われるかもしれませんが、ここで言う読解力の基礎とは「一文単位で正確に内容を理解する力」を指しています。もちろん、東大・京大・早慶と個々の大学によって入試問題の特徴は異なりますので、最終的には志望大学の問題に対応できる総合的な学力を身につけなければなりませんが、いずれの大学を受けるにせよ、最初に取りくむべき課題は「読解の基礎力養成」で共通しています。この点について、東大の問題を元に考えてみましょう。以下の問題の下線部(ア)をすんなりと訳すことができますか?
2020年 東京大学(前期) 4 (B)
The social psychologist and writer Daniel Gilbert suggests that human beings are “works in progress that mistakenly think they’re finished.” And he claims, “the person you are right now doesn’t remain as it is. It is as temporary as all the people you’ve ever been. The one constant in our lives is change.” (ア)Time is a powerful force, he says, and one that perpetually revises our values, personalities, and preferences in everything from music and the places we would like to go to friendship.
【解答例】
時間とは強い力であり、私たちの価値観や個性,また音楽や訪れたい場所から友情まで、あらゆるものの好みを絶えず変えるものである、と彼は言う。
特に難しい単語もなく簡単そうに見えますが、基礎力の有無がはっきりと出る問題です。and one …以下がこの問題のポイントですが、まずoneはどういう意味でしょう? revisesの目的語は? in everything以下の構造と働きはどうなっているでしょう? 最後の箇所をwe would like to go to friendshipというかたまりでとらえていませんか?
この下線部を正確に訳すためには、代名詞oneの用法や、等位接続詞andの役割、関係副詞whereの省略といった文法の基礎知識を活用しながら内容を読み解いていく必要があります。このような和訳問題は東大・京大を始め大多数の国公立大学で出題されます。早慶などの難関私立大学では直接和訳させる問題はごく一部の学部でしか出題されず、ほとんどがマークシートによる解答ですが、和訳であれマークであれ、正答を判断するためには「本文の内容を正しく理解できていること」が大前提となります。ここが固まっていないのに、志望校の過去問演習に時間を割いても期待できるような効果は得られません。「東大の英語は、毎年要約から始まる。要約は苦手だから、早いうちからたくさん練習しておかないと」と、つい過去問の内容から逆算した勉強法に目が向きがちですが、それは大学受験に向けた英語の学習としては本流を外れたものと言わざるをえないでしょう。志望大学や出題傾向は関係ありません。皆さんがまず目指す地点は「英文の内容を正しく理解できること」なのです。
では、「英文の内容を正しく理解する」ために必要な学習とは何でしょうか。それは大きく分けて次の三つになります。
① 文法は英語の仕組みを支える規則
言語学的に英語は日本語の対極に位置するような言語で、英語と日本語の文法は互いに似ても似つかないものです。よって、日本語を母語とする人がとにかく英文をたくさん読むようにすれば感覚的に正しい内容がわかるようになってくるということは絶対にありません。先ほどの英文にはoneの後ろにthatが続いていました。このthatは「あれ・それ」という意味の代名詞ではなく、oneの内容を具体的に説明するかたまりをまとめる「関係代名詞」です。もちろん英語が母語の人は「このthatは関係代名詞だ」などと考えていませんが、このthatの働きについては無意識のうちに正しく理解できます。一方、私たちはネイティブのように生まれたときから四六時中英語に囲まれた生活をしてきたわけではありません。そんな私たちが、ただ何度もthatを目にしているだけで「これは代名詞だな」「こっちは関係代名詞に違いない」と区別できるようになるかというとそのようなことはなく、だからこそ受験科目になるわけです。どんな言語にも当てはまることですが、英語には英語の規則、つまり文法が存在します。無意識に英語を使いこなせるようになるような環境にいない以上、私たちが外国語である英語を正しく理解するためには、何よりもまず英語の仕組みを支える規則=英文法を体系的に学習することが絶対に必要です。文法の学習に際しては、特別なことをしなくても学校の教科書・プリントで扱われている内容を理解していれば十分です。ただし、文法は英語を理解するうえで一番の拠り所となるので、マスターするのが早ければ早いほどその後の学習がスムーズになります。本格的な受験対策を始める高3になるまでに一通りの学習を終えることを目標に頑張りましょう。なお、まれに一部の難関大学で問われるような細かい知識は合否を分ける要素にはならないので、そういった点に時間をかけないように注意しましょう。
先輩の体験談
東京大学理科一類合格 くん僕は英語が得意な方でしたが、もう一度中学レベルからやり直してみたら、実はきちんとわかっていない部分があることに気づきました。そこで、英文法の基礎から徹底復習したところ、読解スピードが上がりました。そしてそれが総合的な学力アップに繋がり、高3秋の模試で東大A判定が出るまで成績が伸びました。
② 語彙は単純暗記?
文法と同じように重要なのが単語の知識です。一つひとつの英単語は文法規則に沿って並べられることで、意味を持った文として成立します。ただし、いくら文法を正確に理解していても、単語そのものの意味がわからなければ最終的にその文がどういう内容を伝えているのかもわかりません。英文読解の授業ではよく「前後関係から単語の意味を類推しなさい」と指導されますが、これは読んでいる英文の大部分が理解できている状態で初めて可能になることです。もう一度、東大の問題を例にとると、thatに続くperpetuallyやrevises、preferencesといった単語は意味を知らないとどうすることもできません。仮にこれらの単語の意味を知らない場合に推測するとしても、本文の内容は抽象的な事柄を述べているので、そのものずばりの意味を推測するのは容易ではありません。よって、単語は理屈抜きで暗記する必要があります。ただし、単語を暗記するときには、対応する日本語を覚えておしまい、とはしないように注意しましょう。もちろんそういった学習でも英語を理解できる範囲は確実に広がっていきますが、それでは自分が英語で情報を発信するとき、つまり英作文の際に正しい表現を使いこなすことができません。例えばthinkという基本動詞について考えてみましょう。先ほどの英文にも“… think they’re finished.”という部分がありますが、thinkについて「~のことを考える」という日本語だけ覚えていると正しい使い方がわからず、英作文で“I am thinking the next English test.”「次の英語のテストのことを考えているところだ」といった英語を書いてしまうことになります。 thinkは後ろに〈that S+V〉や〈疑問詞+S+V〉が来る場合以外は自動詞として使うので、ここは“I am thinking of [about] the next English test.”が正しい表現となります。単語を暗記する際は受験用に頻出語彙がまとめられた単語帳を使うのが効率的ですが、自分で選ぶ際は「単語の使い方=語法」が例文などで確認できるものを選ぶと良いでしょう。なお「単語の暗記が苦手です。どうすればよいでしょうか?」という質問は受験生にとって永遠の悩みと言ってもよいでしょう。この問いに対する一つの答えは「『意味づけ』を効果的に活用すること」です。意味づけとは、すでに知っていること、あるいは過去の経験や身近な事柄と関連づけることです。意味づけには以下のような方法があります。
- ●共通性に関する情報語根、接頭辞・接尾辞の知識を活用する。
例 ignorant「無知な」,recognize「~を認識する」→gn, gnos「知る」 - ●形式・形態・類似性に関する情報
例 irritate「~をいらいらさせる」→発音が「イライラ」に似ている。 - ●関連知識・周辺的知識・エピソード・雑学など
例 foundation「基礎、土台」→ 「ファンデーション」は化粧の基礎としてつけるものだ。
例 refrain(差し控える)→ 電車の放送で“Please refrain from talking on the phone.”と聞いたことがある。 - ●個人的な経験によるもの
友達の名前が英単語の発音に似ていて、しかも意味がその人のイメージと重なるところがある場合。
持っている知識や過去の体験は千差万別ですから、意味づけの仕方が人によって異なるのは当然です。また、自分だけに意味があれば良いのですから、自分のやりやすいようにアレンジすることもできます。手がかりをたどって何かを思い出したという経験は皆さんにもあるのではないでしょうか? 意味づけの効果はなかなか侮れませんので、暗記で苦戦しているという人は試してみることをお勧めします。
③ 構文把握が速読に繋がる
文法・語彙に加えて、もう一つ重要なのが「構文(=英語の文構造)」を正確に把握することです。この点について、さらにもう一度先ほどの東大の下線部(ア)を通して考えてみましょう。
大きな骨格は“Time is a powerful force … and one”という〈S+V+C〉の第2文型で、二つ目のCであるoneに関係代名詞that以下の長い修飾語句が続くという構造になっています。特に注意が必要なのはin everything以下です。everythingには〈from ~ to …〉「~から…まで」という修飾語句が付いていて「~」に該当する要素はここではmusicとthe placesと二つあり、「…」に当たるのがfriendshipです。残った“we would like to go”はthe placesを修飾する関係詞節のかたまりで、weの前には関係副詞のwhereが省略されています。
なんだか回りくどいなと思いましたか? 実際、特に早慶をはじめとする私立志望の受験生からは次のような声がよく寄せられます。
「本試験では和訳なんて出ませんよね? 一文一文こんな細かい分析をして和訳までする意味がわかりません。とにかく長文を速く読めるようになりたいので、そのための方法を教えてください」
この質問に対する答えは次の通りです。
「今やっている細かい分析が、そのための方法なので頑張ろう」
最初にお伝えした通り、設問に正しく答えるためには英文を正しく読めなければなりません。また、たとえ英文を読むスピードが速くても理解が伴っていなければ、それは目を速く動かしているに過ぎないということになります。よく言われることですが「ゆっくり読んで理解できない文は速く読んでも理解できない」のです。そのためまずは英文の構造を突き詰めて考え、内容を正確にとることを徹底します。普段から英文の構造をしっかりとる意識を持って学習を継続すると次第に構造を把握するまでの時間が短くなっていき、最後は明確に構造を意識せずとも英文の内容はきっちり頭に入ってくるという状態になります。逆に言うと、このプロセスを飛ばして英文を速く正確に読めるようになるということは決してないのです。例えば本当の意味で英文が読める人は、上で図示した英文の構造をごく短い時間で正確におさえることができます。また、いったん“the places we would like to go to friendship”というかたまりで意味をとろうとしても、文法・意味の両面からその読み方は正しくないことにすぐ気づけて、別の可能性を模索します。英文の構造を短時間で正しくとることができるので、結果として本文をよどみなく正確に読み進めることができるのです。一方、構文を疎かにしている人は同じ箇所を読んだときに何となく違和感を持ちはしても正しい読み方ができないので、あれこれ考えて時間を浪費した末に「私たちが友情に向かいたい場所」といった意味不明な解釈を作り上げて次の問題へ進みます。正しい読み方が何なのかを理解して実践している人はどんどん読めるようになり、理解していない人はいつまでたっても読めるようになったという実感が持てないまま大学受験に突入することになります。
先輩の体験談
大阪市立大学医学部医学科 くん僕は最初英語がSVOCからわかっておらず、当然全く英文を読めない状態だったのですが、気持ちだけが焦って難しい問題を解こうとしていました。最初は先生に構文を確認しながら読むように言われても無視をしていたのですが、先生に基礎から始めようと説得していただき、根気強く全ての問題でどの単語が主語でどれが動詞かなど一から教えていただけたおかげで、英語が読めるようになりました。
まとめ Summary
大学受験で合格点を取るためには、英語を正しく理解できることが大前提となります。その前提を一足飛びでクリアする方法はありません。まずはここまでに挙げた3つのポイントを意識して地に足の着いた学習を継続していきましょう。