生物の正しい勉強法
入試で必要とされる生物の学力
生物を単なる“暗記科目”だと思っている人はいませんか? もしそう思っている人がいたら、この機会に考えを改めましょう。大学入試における生物では、次のような能力が総合的に問われます。
③ 読解力・考察力
生物の入試問題は、「知識」が問われる問題と「考察」を要する問題とに大きく分けられます。難関大学においては、必ず出題される知識問題で確実に得点したうえで、難関大学ほど出題割合が高まる実験考察問題でどれだけ得点を積み重ねられるかが勝負の分かれ目になります。
生物が苦手な人に話を聞くと、知識はだいたい覚えているけど考察になると苦手……という声を耳にします。このような人たちは、考察問題に慣れなきゃいけない=入試問題をたくさん解かなければいけない……と思いがちですが、本当にそれでよいのでしょうか。考察問題を解くためにまず必要なことは知識を“深く”“正しく”理解していくことです。
次の問題は、2020年度京都大学での出題例です。
生物問題 Ⅰ
(B)放射線や化学物質などはDNA損傷を引き起こし,突然変異の要因となる。そのため,細胞にはDNAの損傷を修復する機構が備わっている。DNA損傷の1つに,シトシン(C)が化学変化してウラシル(U)となるものがある。この損傷は,主に塩基除去過程を経て修復されることが知られている。この過程を図3に示す。まずウラシルがグリコシラーゼという酵素により除去された後,残ったデオキシリボースの5’側および3’側のリン酸基の結合がAPエンドヌクレアーゼなどにより切断される。その後,相補鎖を利用した反応によって,除去された部位に正しいヌクレオチドが挿入され,正常な塩基対へと修復される。
このウラシルの塩基除去修復に関連する実験を行うために,まず,以下に示す塩基配列のように5’末端側から21番目にウラシルをもつ39塩基長のDNAを合成し,5’末端を放射性同位体で標識した(★印)。
次に,ウラシルと向き合う塩基以外は,上記の標識DNAとすべて相補的になるDNAを合成し,標識DNAと合わせて下記の2本鎖DNAを作製した。
この2本鎖DNAを用い,次の2つの実験を行った。(実験2は今回の掲載では省略)
実験1:2本鎖DNAに損傷塩基部分を除去する関連タンパク質(グリコシラーゼ,APエンドヌクレアーゼなど)と除去部位の修復を行うタンパク質A,タンパク質B,および化合物Zを異なる組み合せで加え,さらに酵素反応に必要なATPを加えた5種類の試料を用意し,37℃で1時間反応を行った。反応後,各試料中のDNAを1本鎖にして電気泳動を行い,5’末端の放射性同位体標識(★)を利用して検出した結果を模式図にしたものが図4である。図4中の+は,タンパク質または化合物が試料中に含まれることを,-は含まれないことを意味する。
問 6 タンパク質Aとタンパク質Bとして最も適切なものを,次の(あ)~(お)から1つずつ選び,それぞれ解答欄A1とB1に記せ。また,それらのはたらきを,それぞれ解答欄A2とB2の枠(11.2×2.1cm)の範囲内で記せ。
(あ) DNAポリメラーゼ
(い) DNAヘリカーゼ
(う) DNAリガーゼ
(え) RNAポリメラーゼ
(お) ヒストン
問7 化合物Zとして最も適切なものを,次の(あ)~(き)より1つ選び,解答欄に記せ。
(あ) デオキシアデノシン三リン酸
(い) デオキシシチジン三リン酸
(う) デオキシグアノシン三リン酸
(え) デオキシチミジン三リン酸
(お) シチジン三リン酸
(か) グアノシン三リン酸
(き) ウリジン三リン酸
この問題は「DNAの損傷を修復する機構」に関する考察問題です。難関大学ほど、このような初見の内容に関して考察・思考していく問題が多くなりますが、初見の内容ほど、問題のなかで丁寧に仕組みが説明されています。そこからわかることを自分なりの言葉や図で書き出しながら整理することが、生物学習の基本です。実際にリード文と図3までで、次のことがわかります。
- ●DNA損傷の修復過程は、
step1「損傷部分の除去」 → step2「正しいヌクレオチドの挿入」 - ●このうちstep1の仕組みについては、図3で説明済
- ① 塩基CがUに変化したDNA損傷では、まず酵素により「塩基Uが除去」される(図3中央)
- ② 次いで、両端のリン酸基が切断されることで「残された糖の部分も除去」される(図3右)
すなわち、続けて紹介される実験1は、step2に関する仕組みを明らかにしようとしているのです。このように問題文を丁寧に読み、実験の目的を明確にしたうえで具体的な実験内容に入ることで、何を明らかにするためにやっているのかを考えながら読み進めることができるようになります。では、続きを見て、実験で使う物質についても確認してみましょう。
- ●用意された39塩基からなるDNA鎖は、5’側が★(放射性同位体)で標識され、そこから数えて21番目の塩基がUになっている(=損傷箇所)
- ●「損傷塩基除去関連タンパク質」 = 図3のstep1で使ったもの
「タンパク質A」、「タンパク質B」、「化合物Z」 = step2の修復に必要な物質
このうえで、図4から実験結果を確認のうえ考察していきます。ここでのポイントは、実験を比較する際は条件が一つ異なるものどうしで比較することです。
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何も加えてない試料1とすべて加えた試料5では39塩基のDNA鎖が得られています。当然、試料1は未修復のDNA、試料5は修復完了後のDNAと考えるとよいでしょう。
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まず、試料1と試料2を比較してみます。試料1に「損傷塩基除去関連タンパク質」を加えた試料2では20塩基のDNA鎖が得られます。図3を元に考えれば、塩基の除去が完了した結果、20塩基と18塩基のDNA鎖に切断され、★がついている20塩基のほうだけが図4で検出されたと理解できます。
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試料2に「タンパク質A」を追加した試料3では20塩基のままで変化が見られません。試料3に「化合物Z」を追加した試料4では21塩基のDNA鎖が得られるので、「タンパク質A」と「化合物Z」をともに用いることで、次のように1塩基繋げることができたことがわかります。
ここで解答に入る際のポイントは、各物質のはたらきを正確に理解できていたかです。問6の選択肢にあるDNAポリメラーゼのはたらきを、「DNA複製で新しいDNA鎖を合成する酵素」のような中途半端な理解ではなく、「短いヌクレオチド鎖の3’末端の炭素に、デオキシリボヌクレオシド三リン酸を結合させる(このとき、2つのリン酸が切り離されエネルギー源になる)。」のように正しく理解していれば、タンパク質AがDNAポリメラーゼ、化合物Zがデオキシシチジン三リン酸であることを迷わず解答できたでしょう。いかがでしょうか。繰り返しになりますが、基本知識の正確な理解こそが考察問題を解くための武器になるのです。
生物学習のコツ
① 知識の整理
生物学習の基盤となるのは知識の正確な理解です。知識を「ただ覚える」のではなく「理解して覚える」ことを意識しましょう。ここでいう理解とは、自分で言葉や図を用いて説明できるレベルを意識することが大切です。そのための学習として次のような方法が効果的です。
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最初は「全体像や流れ」の理解に重きをおき、細かな知識をいきなりすべて覚えようとはしない
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「なぜ?」「何のために?」といった意義や利点を理解することも大切
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「説明文 → 用語」を解答できるようになったら、「用語 → 自分で説明」できるように復習する
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加えて、DNA複製や呼吸反応のように、図で説明されがちなものも「図での説明 ⇔ 言葉での説明」を相互変換できるようにしていく = 論述対策にも直結
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教科書に準拠した問題集などで、掲載されている基本問題のリード文にて、頭の中で用語の穴埋めをしながら読み返す = 一つの用語に対する様々な表現が学べ、より理解が深まる
② 記述力の向上
いわゆる「論述対策」は難関大学で頻出かつ生物特有の出題形式とも言えます。論述では「理論的に筋の通った文章が書けているか」、「要点をおさえて簡潔にまとめられているか」の二点が大きなポイントです。論述問題は、知識論述(ex.○○について説明せよ)と、考察内容に関する論述の大きく二種類に分けられますが、まずは知識論述の基盤になる学習方法として、次のようなことを意識しましょう。
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普段から一つひとつの現象を「言葉で説明できるように」復習しておくこと
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教科書の説明文や、演習問題のリード文など、お手本となる文章を普段から読み込む癖をつけておくこと
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実際の論述問題では、字数に惑わされず、まずは設問に対するストレートな解答を端的に考える→ それをもとに、プラスαで必要な説明を考えながら、字数に見合った解答を作成する
③ 読解力・考察力の向上
基礎知識の正確な理解を元に、入試問題の演習を通してこれらの力を鍛えます。しかし、ただやみくもに演習をしても力は伸びません。次のような意識で問題演習に取りくみましょう。
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問題文を一文ずつ丁寧に区切って読み、それぞれの文や図からわかることを“書き出して可視化”しながら読むことを常に意識する
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必要に応じて、与えられた情報を図解で整理するなど、自分がわかりやすい形を心がける
加えて、復習時に意識すべきポイントは、「一つひとつの実験操作にどのような意味・目的があるのかを明確にする」、「実験全体から考えられる結論または仮説の言語化・図式化」、「実験全体の目的がどのような流れで達成できたのかを説明できるようにする」の三点です。これらを繰り返すことで、実験考察に対する論理的思考力を鍛えることができ、初見の実験内容に対しても的確に考察できる力が養われます。
コラム Column
睡眠は大切②:寝ても覚めても? 太陽とともに?
眠くて集中できない人必読です。暦の上では1日は24時間、でも人間の体内時計では1日は25時間です。だからそのままだと1日1時間ずつ後ろにずれていきます。でもきちんと起きて集中している人もいます。実はちゃんと人間の身体は調整できるようになっているのです。ここではその調整メカニズムを見ていきましょう。
生活リズムの基本は起床時刻と就寝時刻にありますが、朝起きて太陽の光を浴びることはリズムを整える上での基盤になります。その仕組みはというと、太陽の光を浴びて14時間後に睡眠を促すメラトニンが分泌されるというものです。人間の身体はその2時間後に眠気が来るようにできているので、起きてから14~15時間くらいのタイミングでストレッチや入浴を済ませて就寝すれば、ぐっすり眠ることができ、気分爽快で快調な朝を迎えることができます。このように朝太陽の光を浴びるだけで体内時計がリセットできて、規則正しい生活を送ることができます。その結果、脳は活性化して集中力もUPすること請け合いです。「自分は夜型だから」と言って朝起きない人は損していますよ。しかも、夜も光を浴び続けると体内時計が狂って午前中はぐったり。入試本番は朝から試験があるのに力を出せないなんてもったいない話ですよね。