化学の正しい勉強法
入試で必要とされる化学の学力
化学は様々な方向の学力をバランスよくトータルに育成することで得点力が伸びていく科目です。主に次のような能力が総合的に求められ、いずれを欠いても入試化学を攻略することはできません。
③ 題意把握力・思考力
難関大学で出題される、いわゆる応用問題では、①知識、②計算の土台が完成していることを前提に、③文章や図・資料を読み順序立てて起こっている現象を整理できるか、与えられた情報・データを組み立てて未知の事項に関する正しい推論ができるか、という力が問われています。
すなわち、①や②の土台がぐらぐらしている状態で応用問題に手を出したところで、その問題の解法をただ覚えるだけになってしまい、真の実力はつかないでしょう。難関大学になればなるほど初見の問題が増えるからです。高3の夏までに①知識・②計算の土台を完成させ、秋以降に実戦問題に取りくみながらその活用法を学ぶ過程で、③題意把握力・思考力を鍛えていくのが理想的です。
次の問題は、2021年度東京大学での出題例です。
この問題では「水素吸蔵反応」という見慣れない反応が問われています。しかし、大学入試の化学において、目新しい反応であればあるほど、問題文中に適切なヒントが散りばめられているものです。実際にリード文(実験1より前の部分)を読むことで、水素吸蔵反応について次のことがわかります。
- ●
水素の分圧がKp(1)=2.00×105Paより小さいときには、水素の吸蔵は起こらない。
- ●
「式1の反応は速やかに平衡状態に達する」こともあわせると、水素の分圧が2.00×105Paより大きくなると、速やかに水素吸蔵が起こり、水素の分圧は2.00×105Paに保たれる。
このことを踏まえて、実験1を読むと、イの解答例は次のようになります。
- ●
混合気体において、「気体の分圧 = 全圧×モル分率」が成り立つので、下線部①において、水素の分圧は1.50×105Pa、アルゴンの分圧は1.20×105Pa
- ●
①→②で圧縮(体積↘、圧力↗)により、水素の分圧が2.00×105Paになったとき、水素の吸蔵が始まる。このとき、水素の分圧は倍になっているので、混合気体の全圧は2.70×105× ※体積は①の倍になっている
ここまでは何となくでも解けてしまう人はいるでしょう。
では、今回のテーマと似たような考えを皆さんは教科書で学習していることに気づいたでしょうか? そう、気液平衡に対する考え方と全く同じなんですね。
- ●液体が少量で、すべての液体が蒸発してもその圧力が飽和蒸気圧に達しないうちは、すべて気体として存在できる。
- ●液体の量が多くなれば、蒸発により生じた気体の圧力が飽和蒸気圧に達した時点で気液平衡となり、それ以上の蒸発は見かけ上起こらなくなる。
気液平衡の考えをこのように正しく理解していた人は、すっと問題に入ることができ、短時間で大問全体を処理できたでしょう。逆に、知識や計算方法をただ丸暗記していただけの人は、続く、問題ウ以降の解釈でも大きく手間取ったことでしょう。
ウにおいて、「同温、同体積」ですから、気体の状態方程式で考えれば混合気体の全物質量が一定のうちは、全圧も常に一定のはずです。
このような基本原理の組み合わせにより、問題のポイントが「すべての水素が、気体のままか、吸蔵されて減少するか」という点にあることに気づき、
- ●水素の物質量比xが大きくなると、水素の分圧も大きくなる
- ●水素の分圧が小さいうちは、Xへの吸蔵が起こらない = 全圧一定
- ●水素の分圧が大きくなると、
水素がXに吸蔵されて混合気体の全物質量が減少 = 全圧減少
と考えて、グラフの(4)を瞬時に選べたでしょう。
化学学習のコツ
① 知識の整理
一つひとつの知識を正確に習得していくことは、応用問題を解く際の武器になるだけでなく、難関大学でも出題される正誤問題や論述問題での得点に直結します。しかし、一問一答形式のようにただ用語の説明を丸暗記しようとするだけの学習は、すぐに忘れてしまいますし学習効率も悪いものです。せっかく学んだ知識を長期記憶にして効率よく学習していくためには、知識を様々な面から理解していくことが大切です。
例えば「水素結合」という用語について、「電気陰性度の大きい原子F、O、Nとの間に水素原子が仲立ちし、隣接する分子どうしが引き合う力」という説明が一般的ですが、言葉だけでなく図とともに学習することで、隣接する分子どうしにはたらいている力という大事なポイントを逃さず習得することができます。
また、知識を確実に習得していくためには、学んだ後の復習も大切です。授業のノートを見返すことはもちろん、教科書に準拠した問題集などを用いて、アウトプットによる定着も進めましょう。そして、最終的な目標としては、一つひとつの用語を自分で言葉や図を用いて説明できるようになることです。このとき、教科書の説明文や、演習問題のリード文など、お手本となる説明文を普段から読み込む癖もつけておくと、一つの用語に対する様々な表現を学ぶことができ、より理解を深めることができます。
② 計算力の向上
化学の計算は、数学ほど多種多様な公式を用いるわけではなく、複雑に見えて実はシンプルです。難関大の入試問題であっても、用いる計算技法は基本問題のそれと何ら変わることはありません。計算力の向上においては、次のような学習を意識するとよいでしょう。
- step1 計算公式を、「言葉」で説明できることを意識する
- step2 基本計算の反復演習
言うまでもなく、計算力を向上させるためには「反復演習」が必要不可欠です。ただし、公式を覚えて、公式に当てはめるだけの反復演習は、ただの丸暗記です。難関大の入試に通用する応用力には繋がらないでしょう。先に紹介した「飽和蒸気圧」に関する理解がまさに良い例です。難関大の入試問題で得点する力をつけるためには、一つひとつの計算に対する確かな理解が必要不可欠です。
「問題に正解できればOK」ではなく、「問題をどうやって解けばよいのか説明できればOK」という意識で、一つひとつの基本問題に取りくみましょう。
③ 題意把握力・思考力の向上
基礎の土台が完成したら、入試問題の演習を元にして題意把握力・思考力を鍛えていきます。しかし、ただやみくもに演習をしたからといってこれらの力が鍛えられるわけではありません。問題演習の取りくみ方はもちろん、その後の復習の取りくみ方が重要です。
演習時の取りくみ方
- ●
問題文を一つひとつ丁寧に区切って読み、それぞれの文や反応式・データからわかることを言葉や図で書き出し、“可視化”しながら読むことを常に意識する
- ●
必要に応じて、与えられた情報を図解にするなど、自分がわかりやすい形に整理することを心がける
- ●
初見の問題が出た場合にも、まずは似たような考え方をする単元・問題がなかったかを思い返す
- ●
状況が把握しづらいときは、具体的な数字を当てはめながら考えてみる
(先の東大の問題であれば、水素の物質量を具体的に変えてみて考えるなど)
復習時の取りくみ方
- ●
解答、解説で示されている一つひとつの内容が、問題文のどの部分からわかったことなのかを丁寧に対応させて確認していく
- ●
間違えた問題について、その問題の解説を読んで終わりではなく、教科書や教科書に準拠した問題集に立ち返り、該当するテーマ・単元に関する基本知識・計算についての確認を徹底する
- ●
難しい計算問題であっても、使っている考え方は基礎の計算問題と共通のものばかりなので、基礎の計算問題と見比べながら復習してみる
このように、問題一つひとつに対して丁寧に向き合うことで、着実に思考力は鍛えられていき、難関大学合格に必要な学力が身につきます。
先輩の体験談
東京大学理科二類 くん僕は1浪して東大に合格しましたが、現役時はとりあえず詰め込むだけの勉強で失敗しました。浪人して気づいたのは、思った以上に基礎ができていなかったことです。特に理科は「原理」から理解することで、難問でも「これはこういう現象だからこういうことか」と解けるようになりました!
コラム Column
睡眠は大切①:寝ている間に記憶が整理される?
睡眠中は脳の中の海馬と大脳皮質の間で記憶の管理のやりとりが行われます。私たちが日々見たり聞いたりしたことは、まず記憶を司る海馬に短期記憶として蓄えられ、整理されます。そして重要な情報は大脳皮質に送られて、長期記憶として蓄えられます。一方で、重要なもの以外はやがて消えていく仕組みになっています。寝る前に暗記物をやると、それ以降に新しい情報が入ってきませんので、大脳皮質には新鮮で重要な記憶のみが蓄えられることになり、寝ている間に整理されて定着していきます。睡眠にはこうした「記憶の固定」という役割があるのです。
徹夜をすると、せっかく頭に叩き込んだものもどこにしまったかわからなくなってしまい、覚えたつもりでも思い出せないことが多いのです。覚えることがたくさんあるときはむしろ睡眠をきちんととって、脳がしっかりと記憶を整理できるようにしてあげたいものですね。