物理の正しい勉強法
入試で必要とされる物理の学力
入試問題の実例を見ながらお話しすることにしましょう。次の問題は、京都大学2020年度入試第1問の前半部分です。
以下では、ばね定数kで自然長ℓのばね、および長さLの糸を用いる。ばねや糸の質量は無視できるものとし、重力加速度の大きさをg、円周率をπとする。
(1) 図1のように、質量mの2つの小球(質点)を糸とばねでつるし、つり合いの位置で静止させた。2つの小球は鉛直方向にのみ運動するものとし、糸がたるんでいないときの小球1の位置を原点として、鉛直下向きを座標軸の正の向きとする。また、小球1は天井にぶつからず、小球同士は衝突しないものとする。
いま、小球2をつり合いの位置から長さdだけ引き下げ、静かに手を離す。dが十分に小さいときは、運動の途中で糸はたるまず、小球2は位置を
ア中心とした、振幅イの単振動をおこなう。dがある値より大きいときは、運動の途中で糸がたるむ。小球1にはたらく重力、糸の張力、ばねの力のつり合いを考えると、糸がたるみ始めた瞬間の小球2の位置はm, g, k, lを用いてウと表されるので、運動の途中で糸がたるむための条件は、d > エとわかる。
次に、dが十分に大きく、糸がたるむ場合の運動を考えよう。小球1,2の位置をそれぞれx1,x2とし、重心の位置
、および小球1からみた小球2の相対位置 について、糸がたるみ始めてから再びたるみがなくなるまでの運動を考える。2つの小球にはたらくばねの力は、互いに逆向きで大きさが等しいので、重心はばねの力の影響を受けずに鉛直投げ上げ運動をおこなう。糸がたるみ始めた瞬間における重心の速さを m, g, k, d を用いて表すと
オとなる。一方、2つの小球にはたらく重力は、向きが同じで大きさが等しいので、相対位置xは重力の影響を受けずにばねの力で単振動をおこない、その周期はカで与えられる。また、小球1の速度が最小値をとる瞬間において、小球1からみた小球2の相対速度はキ×オとわかる。
高校で学ぶ物理は大きく
の5分野に分類できますが、最も重要なのは力学です。力、エネルギー、運動量といった物理の基本概念を理解し、与えられた現象をどのように解析するかを、力学の学習を通じて身につけていき、ここで学習した事項が物理全体についての理解の基盤となります。
途中まで、実際に問題を解いてみましょう。
物理とは、できる限り少ない基本原理を元に多様な物理現象を説明しようとする学問です。覚えなければいけない公式はごくわずかしかありません。前ページの解答で使われている内容で、公式と呼ぶことができるものは、単振動についての基本事項
ぐらいでしょう。解答の際に行っていることは。
- 1. 位置や加速度などを文字で置く
- 2. 各物体にはたらいている力を書き出す
- 3. 各物体について運動方程式を立てる
- 4. 運動方程式から物体がどのような運動をするかを読みとる
という、力学の問題を考えるうえでの基本的な手順に従っているに過ぎません。
物理を学ぶうえで最も重要なこと、そして大学入試において必要となる学力として最も大きいポイントは①基本原理の理解です。余計な知識は必要ない(さらに言えば、余計な知識はむしろない方が良い)、しっかりとした基本原理の理解さえあれば、それを元にありとあらゆる問題が解けるようになる、というところが物理の醍醐味でもあります。
高校生の皆さんが物理を学ぶ際の一番のベースは教科書です。教科書に書かれている事項を着実に身につけ、基本原理から様々な式が導出できることを、実際に手を動かして確認しましょう。
例えば、二本のばねを連結した場合について、参考書によっては次のような式が書いてあります。
このような式を丸暗記するのは本当にもったいないことです。基本となる原理
力のつり合い
作用反作用の法則
という3つの原理から自力でこの式を導出してみましょう。そしてそれができるならば、この式そのものは覚えなくてもいっこうにかまわないのです。これは力学に限った話ではなく、例えば波動でレンズについて学ぶときも、電磁気学でコンデンサーの接続について学ぶときも、全く同じことです。
物理は得意な人と苦手な人の間で得点力の差が大きく出る科目です。それは、この①基本原理の理解ができていないうちはどこまでいっても「物理がわかった」という実感を得ることができず、逆にひとたび基本原理を十全に理解できればあとは演習量に応じて加速度的に得点が伸びていくからです。
ということで、①基本原理の理解を固めた後、次のステップとしては実戦的な問題演習を通じて②題意を把握する力を磨いていくことになります。
同じようなことを繰り返しお話しする感じになってしまっていますが、物理の勉強はきわめてシンプルです。最小限の道具を徹底的に磨いて、その道具でありとあらゆる物理現象を分析していきます。出題者側が受験生に要求するポイントもシンプルであり、そのため大学の入試物理では似通った題材が繰り返し出題されます。例えば、最初に例示した2020年京大の問題と、2019年芝浦工業大の問題はほぼ同じ状況ですし、2020年東北大の問題は物体の配置は違いますが、問題の解きほぐし方は同じです(下記の図2および図3を参照)。
いきなり難問にとびつく必要はありません。標準的な問題が精選された問題集を用いて(学校で指定された問題集がなければ、先生にどの問題集が良いかアドバイスしてもらうと良いでしょう)、一つひとつの問題にじっくりと取りくみましょう。一冊の問題集をきっちり仕上げれば、模試で出会うあの問題もこの問題も、実はこれまでに解いたことのある問題と同じテーマじゃないか、ということに気づくはずです。ここまできたら、物理 はもうあなたの得点源に成長しているはず。必ずや物理が第一志望合格に向けた最大の武器となっていることでしょう。