古文の正しい勉強法
古文が読めるようになるためには、大きく二つのことが必要です。一つ目は単語や文法の知識を身につけること。二つ目は本文のストーリーを正確に理解するために主語に着目しながら読解することです。それでは見ていきましょう。
① 知識力を問う問題は基本的知識の組み合わせ
古文では、単語や文法の知識だけで解くことのできる問題があります。上記は2021年共通テスト(第一日程)の古文の問1で、傍線部の解釈として適当なものを聞いていますが、この問題を解くために必要なのは、決して難しい知識ではなく、複数の基本事項を組み合わせることです。
(ア)は、「まねぶ」(まねをする・見聞きしたことをそのまま人に語る)と「やる」(下に打消の語を伴って、最後までしきれないというの意味を表す)という古文単語の意味を知っている必要があります。後は、「え~打消表現」は不可能(~できない)の意味になる、という陳述の副詞についての理解があれば、答え(④)を特定できます。(イ)は「めやすし」という重要単語の意味(見苦しくない・感じがよい)を知っていること、そして「おはす」が尊敬語であることがわかりさえすれば、答えは一つ(③)に絞ることができます。
さらに、(ウ)は「里」の意味(宮仕えの者が奉公先に対して、自分の実家をいう語)、および「なば」が順接仮定条件であることがわかれば、やはり答えを一つ(①)に絞ることができます。このように、(ア)~(ウ)で問われているいずれの知識も、一つひとつは基本的な事項なのです。
単語も文法も、まずは学校で使用している単語帳や文法書を完璧にしながら、授業時に教科書で内容を理解する際のキーとして説明された事柄を順次覚えていきましょう。単語はあまり数を覚えることにこだわる必要はありません。しかし、模試などで実際に演習問題を解く際には、個々の知識を複数組み合わせた形で用いることが必要になるので、本当は知っていることでもポイントを見落としてしまったり、勘違いをしたりして、なかなか正解に辿り着くことができない受験生も多いでしょう。したがって、個々の知識が本当に自分のものになったかどうかを確認するために、知識の学習と並行して、コンスタントな問題(読解)演習とその復習とを心がけましょう。
先輩の体験談
東北大学経済学部 くん僕は国語が大の苦手で、校内順位もかなり下位で、国語を使わずに行ける大学を必死に探し た時期もあるくらいでした。古典は9月までは文法や単語などの基礎をきっちりと固め、10月から12月は基礎と並行して記述の対策も進めていきました。段階的に勉強していったことで、国語の偏差値は15以上アップ、二次試験では得点源になりました。
② 読解力を問う問題は人物に注目
他方で、単語と文法の知識だけでは正解に辿り着くことが難しい種類の問題もあります。
上記サンプルの問5を参照してみましょう。こちらは本文中に出て来る、X・Y、および解説文(【文章】)の中のZを含め、計3首の和歌についての説明として適切な選択肢を二つ選ばせる問題です。
例えば、選択肢の②と③を比較してみましょう。すると、使われている言葉は異なりますが、前半の和歌Xについての解釈は、おおむね同じであることがわかります。ところが後半の和歌Zの解釈を見てみると、②が和歌Xの慰めをただ肯定する、という解釈なのに対して、③は和歌Xの慰めをいったん肯定しながらも、最終的には拒否する、という解釈をしているのに気がつきます。和歌の前後の地の文における主人公の言動や心情と照らし合わせれば、(妻を失った)主人公の悲しみは非常に深く、したがって和歌でもそのように主張しているはずだと考えられます。すると、②よりも悲しみを強く訴えている③が正解(の一つ)であると推測できるはずです。
こうした和歌解釈の問題では、単に個々の和歌を解釈するのではなく、和歌を挟んだ地の文における歌い手の言動や心情も加味したうえで選択肢を吟味することが要求されています。したがって、本文を読み解くための知識は言うまでもなく、本文全体のストーリーや趣旨、主要登場人物の置かれた状況やその心情、人物どうしの関係性などを総合したうえで判断しなければなりません。そのためには、普段から古文に取りくむ際に、最も基本的なポイント、すなわちある一つの動作やセリフがいったい誰のものなのか、ということを常に意識して読解する必要があります。主語が判然としなければ、ストーリーや登場人物の心情も理解できなくなってしまいます。
先輩の体験談
東京大学文科三類 くん古文では文法上は何通りかの答えや訳ができる問題があり、正しい解釈が必要になることがあります。そこで大事なのは、主語を見つけるテクニックです。主語が判別できるようになると、文章もいっきに理解しやすくなり、得点率も上がります。このことはずっと盲点だったので、知れてよかったです。
③記述力を問う問題は添削で不足を補う
次に、正解が選択肢で示されている客観式の問題ではなく、記述式の問題の場合は、解答を作成するためにどのような力が必要になるのか見てみましょう。
上記サンプルは2021年の東大の問題で、『落窪物語』の一節です。具体的には、賀茂の祭りで見物する際の車の場所をめぐって、衛門督側(落窪の君側)の人々と、源中納言側の人々とが言い争っている場面です。この点はリード文に書かれていますが、『落窪物語』についての文学史的知識があれば、なおその情景を想像しやすくなるでしょう。ここでは、特に(四)傍線部カ「殿を一つ口にな言ひそ」を解釈するためにどのような知識や作業が必要になるかを見てみましょう。
この傍線部を正確に理解するためにまず必要なのは、「な(~そ)」が禁止(「~するな」)の意味を持つという陳述の副詞についての基本的知識です。次に、この発言が(衛門督側と源中納言側の)どちらに属する人なのか、そして発言中に省略されている内容は何か、について文脈から判断する読解力です。傍線が含まれるセリフの前に、「口悪しき男また言へば」とあるため、この発言自体は主人公側、すなわち衛門督側の人(従者)のものだと推測できるでしょう。
次に、設問では「どういうことか、「一つ口」の内容を明らかにして説明せよ」とあるため、この点について詳しく説明しなければなりません。「一つ口」という表現は、傍線部直前の「同じもの」の言い換えです。この「同じもの」は、前の行の「豪家だつるわが殿も、中納言におはしますや」を受けています。注を見れば、「豪家だつるわが殿」というのが、「権門らしく振舞う、あなたたちのご主人」の意味であることがわかります(※「権門」とは、官位が高く権勢のある家のこと)。つまり、源中納言側の人々が、衛門督の従者達に向かって、衛門督も「同じ中納言でいらっしゃるではないか」と言ったことを指しています。それに対して、今度は衛門督の従者が「同じものと見なすな」という趣旨のことを言い返したのです。以上のことを踏まえて、東大の解答欄1行(約30字)に収まるようにこの発言を説明するのであれば、「衛門督のことを、源中納言と同列であるかのように扱うなということ。」(32字)などとなるでしょう。
以上のように、記述問題で合格答案を作成するためには、基本的な単語・文法についての正確な知識に加えて、リード文や注を参照しながら全体のストーリーをつかむと同時に、言動の主体を的確に判断するための読解力、そして最終的にそれらを駆使して各大学の指定する字数内にまとめあげる記述力が必要となります。はじめはあまり字数を気にせず、必要だと思われる内容を書き出し、その上で重複している内容や重要度が低い内容はカットし、長すぎる表現は短く言い換えることで、字数の調整を行うのが良いでしょう。現代文と同様に、答えを書き上げて参考書の解答などと見比べても、自分の答案を正確に評価することが難しいので、ぜひ身近な指導者に添削してもらいましょう。自分の解答に何が不足していたのか、どう書けば良かったのかについてその都度理解することで、飛躍的に記述力は伸びていくはずです。重要なのは基本の積み重ねであることを常に念頭において学習に取りくみましょう。
まとめ Summary
古文読解の制覇のためには、単語や文法を覚えた上で、一つの動作やセリフが、いったい誰のものなのか、ということを常に意識して読解する必要があります。問題演習と復習で量をこなして少しずつ慣れていきましょう。