こんにちは。四谷学院国語担当、安藤です。今回は早稲田大学・スポーツ科学部の小論文試験についてお話します。
数々の有名スポーツ選手を排出している早稲田大学スポーツ科学部、通称「スポ科」。その出身選手には、スポーツでの業績もさることながら、社会貢献の面でも大きな業績をあげている人がたくさんいます。
彼らが優れているのは、もしかしたら、この小論文試験(※)を通過しているからかもしれません。
非常に柔軟な思考力を求めるスポーツ科学部の小論文試験を一緒に確認し、どのように勉強するか、一緒に考えてみましょう。
※ 小論文試験を課さない試験形態で入学した人もいますので、あくまで可能性です。
早稲田大学スポーツ科学部 小論文試験の形式は?
早稲田のスポーツ科学を受けるために過去問を解いていたんですが、出題内容が毎年あまりにも違っていて、どうすればいいかわからなくなっちゃって…。
過去問を闇雲に解いていると、学習方針を見失いがちになる試験なのは間違いないね。よし、じゃあ一度試験の全体像を確認してみようか。
早稲田大学 スポーツ科学部
・募集人員 150名
【一般選抜】
【大学入学共通テスト2教科2科目 +小論文】
共通テスト・国語:国語 または 数学:数学Ⅰ・数学A /配点100点
共通テスト・外国語:英語/配点100点
+ 小論文(90分/50点)
※国語と外国語は、それぞれ配点200点を100点に換算します。
※国語と数学を両方受験している場合は、得点の高い方の成績を大学側で自動的に抽出し、合否判定に利用します。
※小論文の得点が基準点に満たない場合は、不合格となります。
試験時間は90分。時間制限が厳しいというレベルではないけど、あまり呑気にやっていると終わらなくなるね。
文字数はここ数年、601文字~1000文字。最低字数に多少の変動はあるものの、最大字数は1000文字で10年以上固定されている。
これも字数制限がつらい、という感じはしません。字数の許容範囲も広くて、好きに書かせてもらえる感じがしますね。
小論文試験の出題内容は?
スポ科といえば「突飛な出題」という印象なんですけど、これはずっとなんですか?
いや、2018年からだね。それまでは短めの文章、それも新聞記事などの簡単なものを読んで、自分の意見を述べる、という形が基本だった。例外はあるけどね。
「キュー!」(人差し指と親指で円を作り、残りの三本の指を広げたポーズ)
…という具合に、「じゃんけんにグー、チョキ、パー以外に『キュー』を加えたらどういうルールになって、どういう魅力と問題が生じるか」というのを考えさせる問題だったんだ。
(えっ、まさかそのためにさっきのしょうもないやり取りを…?)
2018年の受験生には衝撃だったろうね。SNSでも随分話題になっていたのを覚えているよ。2019年以降も同様のユニークな出題は続くんだけど、一部関係者の間では「じゃんけん」が早稲田スポ科小論文の代名詞みたいになっている節があるね。
へえ。「じゃんけん」以外にはどんなものが出たんですか?
2019「『かくれんぼう』を大人になると遊ばなくなるのはなぜか。」
先生、昨日お子さんと「かくれんぼう」したって言ってませんでしたっけ。
2020「『科学とは疑うことである』から始めて何か論じよ。」
2018や2019だって真面目なテーマだよ。とくに2019の解答は結構カタいものになると思う。「かくれんぼう」を足がかりに、子どもと大人を比較する文章になるだろうからね。
こないだ授業でやった『キャラ化する/される子どもたち』(2016センター試験本試 国語 大問1)が、「リカちゃん」を足がかりにキャラとアイデンティティの比較に入ったのと同じですね。
そうそう。入り口は入りやすいけど、まとめるにはある程度の記述力が必要になるだろうね。
うーん、テーマの幅も広いし、それぞれが違うベクトルで難しそうです。対策が考えづらいですね…。
早稲田スポ科に求められていることの分析
①テーマからわかること
2017年以前の入試は具体的にどんな感じだったんですか?
短めの、比較的簡単な文章を読んで、何かを論じる、という形式が基本だったね。
その簡単な文章ってどんな感じのものだったんですか?
ちょっと手持ちの過去問データを引き出してくるね…。ああ、そうそう、こういうのだったな。
2017年は、オリンピックにおける男女の待遇格差を踏まえて、スポーツにおける男女差を論じさせる問題。
2016年はちょっと出題が特殊だったんだけど、まあ要するに部活動の現状を否定するにはどのような論拠が適切かを考えさせる問題。
2015年はスポーツが共同体の形成に影響することの功罪を考えさせる問題。
なんとなく、2017年以前のほうがまだ、法則性を見いだせそうな感じがします。
そうだね。2017年以前は、「社会のなかでスポーツがどのように位置づけられるか」を考えることを求めた出題が多かったね。
でも、その方向性では「じゃんけん」は解けなさそう。2018年の受験生は面食らっただろうなあ。
流したけど、2016年に代表されるように2017年以前も特殊な出題がないわけではなかったからね。全く想定していないわけではなかったとは思うけど、ビックリはしただろうね。
改めて、2018年以降の対策の難しさが浮き彫りになりますね…。試験までにどんなことを考えておくと良いんでしょうか。
とりあえず試験から言えることは、
「社会のなかでスポーツがどのように位置づけられるか」から、「社会とスポーツのかかわりを考える」という程度まで、検討すべきことの抽象度が上がったということかな。
学校や塾予備校の授業を受けていくなかで、それぞれの科目とスポーツのかかわりを考えてみることが、日常的にやりやすい対策になるだろう。主要5教科はもちろん、家庭科や音楽、美術の時間だって受験勉強になりうる。
「受験勉強」として意識していないようなところだからこそ、差がつきそうですよね。
「教科」はあくまで指導・学習のしやすさのための分類であって、何かを学び修めるということの基本はどの科目だって変わらない。このあたりの話は、早稲田大学がどういう学生を求めるか、という話とつなげると説得力が増すかな。
早稲田スポ科に求められていることの分析
②アドミッションポリシーからわかること
早稲田スポーツ科学部のアドミッション・ポリシーは見たことがあるかい?
一度見たんですが、正直抽象度が高くて何が言いたいのかあんまり…。どこの大学でも言えそうなことに見えてしまいました。
企業理念とかもそうだけど、基本的には組織の構成員が同じ意識を共有するためのものだから、必然的にある程度抽象度が高くなるんだよね。イメージが湧かないんだろう。しかし、いまの僕らなら、もう少しわかることもあるんじゃないかな。入試という具体的なものを見たあとなら。以下に早稲田大学のアドミッション・ポリシーを引用するね。
アドミッション・ポリシー(入学者受入方針) 早稲田大学では、『学問の独立』の教育理念のもとで、一定の高い基礎学力を持ち、かつ知的好奇心が旺盛で、本学の理念である進取の精神に富む、勉学意欲の高い学生を、わが国をはじめ世界から多数迎え入れている。スポーツ科学部では、「一般選抜」をはじめとして「大学入学共通テスト利用入試」、「総合型選抜Ⅰ群(トップアスリート入試)」、「総合型選抜Ⅱ群(アスリート選抜入試)」、「総合型選抜Ⅲ群(スポーツ自己推薦入試)」等の多様な入試を実施している。これらの多様な入試形態を通して、スポーツマインドを持ちかつ学力に優れた受験生から高い競技力と学力を持つ受験生まで、多様な個性をもった学生を受け入れ、大学がより豊かで充実した学問の場となることを目指す。スポーツには「する」という関わり方だけではなく、「みる」、「ささえる」など様々な関わり方がある。本学部ではそのような幅広いスポーツ科学を真摯に探求し、スポーツの価値の向上やスポーツ科学の発展に大いに貢献できる人材を受け入れる。
出典:早稲田大学教育理念–早稲田大学 スポーツ科学部アドミッションポリシー
たしかに!入試問題を見たあとだと、「多様性」を強く求めているのがわかります。「多」「様(々)」の文字が、この短い文章の中に合計8回も出てきてますよ!
数えたのか…。スポーツ科学自体、1960年ころから注目され始めたという話があるね。哲学や経済学などの伝統的な学問からするとかなり若い学問だし、早稲田大学に独立のスポーツ科学部が誕生したのも2003年。140年以上の歴史を持つ早稲田大学からすると、かなり新しい学部だ。ここから何が言えると思う?
スポーツ科学という学問の裾野自体をまだまだ広げていこうとする主体性が読み取れますね。さすが私学の雄。小論文も、そういう学部の姿勢に適う柔軟で主体的な姿勢の学生を選抜するための問題になっていると言えますね。
早稲田スポ科の小論対策~小論文の勉強法~
柔軟で主体的な思考力が求められているのはわかったんですけど、どうやって勉強していけば良いんでしょう?学校や塾予備校の授業を受けながら色々と考えてみるというのが一番の対策ですか?
思考力というと頭の中で完結すると思いがちだけど、その実、筆記と不可分なんだよね。
先生がいつも言っている「記述は書きながら考えろ」という話ですね。
その通り。いきなり清書する必要はないけど、文章にわかったことを書き込んだり、雑にでもいいからなんとなく記述内容の骨格を手を動かして考えてみるのが、国語記述対策の第一歩だ。これは書くことによって思考が促進されていくことを示している。これは小論文対策だって同じだ。まずは書いてみること。これが大事だ。
いっぱい書いてみるということが大事なんですね!一日一題ずつ、過去問に取り組んでみたいと思います!
いやいや待て。闇雲に数をこなせば良いということではない。書いていて、ミスがあったらどうする?とくに日本語のミスは自分では気付きづらい。気づかないうちに数を重ねてしまい、自分のミスが悪い癖として固まってしまうことはよくある。
たしかに…。きちんと添削指導を受けることが大事なんですね。
そう。学校の先生や塾予備校の先生をきちんと頼って、効率的に、効果的に小論文演習をしよう。
書く力と読む力が重要
学校の授業とスポーツを結びつける。小論文の添削指導を受ける。他にはなにかありますか?
※ポジショントーク:自分や自分の所属する組織にとって有利なことしか話さないこと。今回の場合、先生の発言は「国語の先生」の需要を保つために有利になる発言である。
自覚はある。でも実際、小論文と国語に親和性があるのは間違いないでしょ。
日本語を「読む」か「書く」か、だけの違いですもんね。しかも国語には「書く」ことも含まれる。
1000字の小論文は比較的長文の部類に入る。長い文章をまとめるのは社会人にも苦手とする人がたくさんいるくらいだし、それなりの訓練は必要だ。
長い記述なら、同じ早稲田の法学部の国語とかを解いていけばよいですかね?
いや、法学部の国語の難易度は難問揃いの早稲田国語の中でもかなり上位にあたる。2017年以前の小論文課題文を見る限り、スポーツ科学ではそこまで超高度な読解力を求めているとは言いづらいだろう。もちろん読解力があるに越したことはないが、とりあえずスポーツ科学部対策という意味では効果的とは言いかねる。そもそも長文を書くこと自体は小論文添削でやるしね。
短文をまとめられなかったら長文はもっとまとめられないからね。国語の「書く」学習としては、60~80文字程度の記述をまとめる練習をきちんとしておけると良いだろう。北海道大の記述がちゃんと書けるレベルなら良い感じだと思う。
もちろん。そもそも「読む」力も上げなきゃいけない。
反論されることをわかって言うんですけど、去年みたいに「『退屈』の意味を考えよ」みたいな出題が出されたら読む力なんて関係なくないですか?
反論されるために疑問を呈する姿勢、素敵だね。「読む力」をつける理由はいくつかあるんだけど、大きなものとしては「書く」ためにも「読む」力が必要だという話があるね。
たとえば、次の文章を読んでみてごらん。2019年の小論文試験で、僕の書いた解答例の一部だ。
「遊びは子供にとって重要な社会的行為だ。『かくれんぼう』の場合における「オニ」「隠れる人」のように、役割を措定し、ロールプレイを実行する中で、一種の秩序を守ることができる人間であるという相互の信頼関係を再帰的に確認する行為が遊びである。子供の場合、そのような社会との信頼関係を確認する手段に乏しい。遊びの役割は大きい。
他方、大人の場合、社会との信頼関係を結ばずに生きていくということ自体が難しい。食事にしろ睡眠にしろ、子供であれば親(ないしそれに類する人)が担保してくれる信頼を、社会に求めるのが大人だ。」
(「『かくれんぼう』を大人になると遊ばなくなるのはなぜか。」解答例)
あ、ほんとだ。さっき先生が言ってたように、結論は結構抽象的でまじめなかんじになるんですね。
そう。この文章、要するにどういうことを言っているかわかるかな。
「遊びを行うことで、子供は社会との信頼関係を確認しているが、大人は社会に信頼関係を確認…アレ?」
この文章、実は結構構成が難しいんだよね。「遊びを行うことで、子供は社会との信頼関係を確認しているが、大人はそもそも子供より複雑で広範な信頼関係のもとで生活しているため、必ずしも遊びのような確認手段を必要としない。」とかになるかな。さあ、この解答例のような文章を書けるか。
じゃあ今度は、どうやったら解答例みたいな文章を書けるようになる?
ここまでの話を踏まえるなら、「読む」ことじゃないでしょうか。
そうだね。谷崎潤一郎は文章術について論じた『文章読本』で、「できるだけ多くのものを、繰り返して読むことが第一であります。次に実際に自分で作ってみることが第二であります。」(『文章読本』1996中公文庫P.89)と述べている。あたう限り文章に触れ、親しみ、語彙に習熟しよう。そのために、国語の授業や学習、受験勉強は大きく貢献してくれるはずだよ。
うーん。評論用語集も大事なんだが、多くの受験生はその前の段階、漢字学習の段階で課題を抱えているように思う。先の解答例で示した「措定」「秩序」「再帰(的)」「担保」あたりの語句は、どちらかというと漢字学習の過程で覚えていくものだね。
「措定」とか、「決定」とどう違うか説明できないですね…。
小論文で実際に言葉を筆記しないといけないわけだから、漢字の書き取りは当然大事。しかし、同時に意味も併せて確認していこうね。以下の記事も参考に。
【現代文・共通テスト対策】 漢字の学習は語彙の学習と心得よ!
こんにちは、四谷学院の山中です。 今回は、共通テスト「現代文」の漢字対策について解説します。 漢字の出題形式 まずは例題を見てみましょう。 例題1 傍線部(ア)...
小論文の前段階として国語学習。多読精読と、意味の確認を含めた漢字学習をきちんとやっておくということが大事だ、ということですね。
早稲田入試の科目ごとの特徴を押さえよう
早稲田大学の入試は、問題数が多く試験時間が長い傾向にあり、しかも学部によって入試内容も異なります。早稲田合格のためには出題傾向をしっかり分析して効率よく対策をしていく必要があります。
早稲田大学の科目ごと、学部ごとの入試対策について、詳しい記事がありますので、ぜひご覧ください。
早稲田大学の入試対策
まとめ 早稲田大学スポーツ科学部の入試「小論文の傾向と対策」
今回は早稲田大学スポーツ科学部の小論文対策についてお話してきました。
早稲田スポ科の小論文対策で必要なのは、
色々な科目の学習をスポーツにつなげて考えてみること国語の学習―語彙・読解量/質小論文の添削指導この3つです。過去問だけを見ると手が止まりそうになる小論文学習ですが、理論立てて考えると、何をすべきか見えてくるはず。明日の学習につなげてもらえたら幸いです。
早稲田対策の国語学習・小論文学習は、四谷学院でほぼ完結することが可能です。 普通の予備校では「やっておいてね」で終わりがちな漢字指導や、集団指導外での演習は、「55段階個別指導」でプロ講師がしっかりサポート!一人ひとりに合わせて対策できるのは四谷学院の大きな強みです。自分ひとりではなかなか難しい小論文対策をどのように進めていくか相談することもできます。集団と個別の「ダブル教育」にご興味をお持ちいただいたら、まずはお気軽に個別相談会にご参加ください。
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