このページでは、令和6年度(2024年度)の大学入学共通テスト「世界史」の出題について解説します。
目次
世界史B
大問数が5題から4題に減少し、問題数が34題から33題に減少しました。
また、これまで各大問はA・BもしくはA・B・Cからの問題構成とまちまちでしたが、今年度はすべての大問がA・B・Cからの構成となっていました。
大問ごとの分析は下記の通りです。
第1問
第1問はA・B・Cともに文字資料を伴う問題でした。
A・Bでは昨年度からみられるようになった「関連する文字資料2~3題を読み取らせる」問題が出題され、資料をしっかりと読まなければ解答できない問題であったため、時間がかかってしまい、焦ってしまった受験生もいたと推察されます。
落ち着いて解答に必要な要素を文章から読み取るために、日頃から過去問題等を通じて、資料問題の形式に慣れておく必要がありました。
Aは中国史からの出題で、周・秦、西晋に関する資料を読み取るとともに明に関する問題も出題され、幅広い時代について時代ごとの整理をできている必要がありました。
Bではノルマン=コンクェストに関連する資料が出され、中世・近世ヨーロッパ史の内容が問われました。
Cは近現代ヨーロッパ史からの出題で、説明文には目を通しておく必要があったものの、資料は読まなくとも解答できる問題でした。
いきなり資料を読むのではなく、先に問題に目を通しておければ、時間短縮につながったでしょう。
第2問
第2問もA・B・Cともに文字資料を伴う問題でした。
Aではアレクサンドロス大王に関連する1~4の文字資料が出題されました。
4つの資料を読ませるという新傾向の問題でしたが、これまでの資料問題と同様の解き方で対応可能な問題でした。
Bではアメリカ合衆国の法律3つに関する資料が出され、内容から法律名を導く必要がありました。
問4・5では法律が制定された理由・背景、施行されたことによる影響を問う問題が出題され、一問一答等で単に用語をおさえるにとどまってしまっていた受験生は対応できない問題だったでしょう。
また、同じく問4・5は解答が複数存在する、これまでみられなかった形式の問題でした。
Cは朝鮮戦争に関する資料をめぐる問題で、問6・7は受験生が手薄になりがちな現代史からの出題だったため、現代史まで手が回っていたかどうかで差がつく問題でした。
第3問
Aはインドに関する地図2つと会話文をもとに解答する問題で、古代~近代までのインド史をしっかりと整理しておく必要がありました。
Bでは20世紀のアメリカ合衆国に関するグラフが出されましたが、グラフの読み取り自体は易しいものであったため、20世紀前半のアメリカ合衆国についてしっかりと整理できていれば問題なかったでしょう。
Cでは19世紀のロシアに関する文字資料2つとグラフ、それにまつわる会話文から解答する問題が出題されました。
問6では2つの文字資料から資料作成者の意見を考察する必要がありましたが、資料をしっかりと読めていれば解答を導くことは容易だったことでしょう。
第4問
Aは会話文を読んで解答する問題で、古代~中世の西アジア・ヨーロッパからの出題でした。
先に問題に目を通し、会話文中の「シリア語」にまつわる箇所のみを読んで解答に必要な要素を抽出できれば、時間短縮につながったでしょう。
Bではコロンブスに関する説明文が出され、こちらも解答に必要な箇所を要領よく読み取る必要がありました。
Cは顔真卿に関する会話文を読んで解答する問題で、唐・清についてしっかりと整理しておく必要がありました。
問8は文化史からの出題でしたが、用語名のみならず、唐代後半期から宋代にかけての文化の風潮についてもしっかりと理解しておく必要がありました。
世界史A
大問数が4から5に増加したものの、問題数は30題で昨年度と同じでした。
これまでと同様に、文字資料をはじめとするさまざまな資料を読み取る力が求められました。
大問ごとの分析は下記の通りです。
第1問
Aでは、フランスで起こった出来事をムスリムの視点から考察している資料が出され、問題は近現代の西アジア・ヨーロッパからの出題でした。
問1を解答するためには、資料の内容からこの資料が七月革命に関する資料であると理解する必要があったとともに、「フランス人の王」と「フランスの王」の違いをしっかりと読み取る必要がありました。
Bは19世紀末~20世紀前半の日本・中国に関する問題で、問5を解答するためには五・三〇事件の年代を把握しておく必要があり、少し難度の高い問題でした。
第2問
Aでは第1次・第2次バルカン戦争に関する図2つとそれにまつわる会話文が出され、近現代ヨーロッパ史からの出題でした。
問2では、第1次・第2次バルカン戦争での対立構造の変化をしっかりと理解しているかどうかが問われました。
Bは19世紀後半のフランスからの出題でした。
問5はアルザス・ロレーヌ地方という、地図問題ではあまり問われることのない地域からの出題であったため、少し難度が高かったと考えられます。
日頃から資料集等で地図に目を通しておけるとよいでしょう。
第3問
Aは古代~中世の西アジア・ヨーロッパからの出題でした。
問3は会話文を読んで解答する問題でしたが、シュリーヴィジャヤ王国・キルワがそれぞれ東南アジア・アフリカ東部海岸にあった王朝・都市であったことを理解しておく必要があり、受験生が手薄になりがちな周辺地域史からの出題でした。
Bは19世紀~20世紀のアメリカ合衆国からの出題でした。
問6は現代史からの出題であったため、第二次世界大戦以降についてもしっかりと学習しておく必要がありました。
第4問
Aではカール5世とフェリペ2世の絵画とそれにまつわる会話文が出され、近世ヨーロッパ史の問題が出題されました。
問3では会話文を読んでフェリペ2世の意図を読み取る必要がありました。
Bは西夏・モンゴル帝国・清と中国史からの出題で、問4はAの問3と同様に会話文から解答に必要な箇所を読み取る必要がありました。
第5問
Aは20世紀のヨーロッパからの出題でした。
問2は現代史からの出題であったことに加えて、太平洋安全保障条約(ANZUS)という少し細かい内容を理解しておく必要があったため、少し難度が高かったと言えるでしょう。
Bは現代史からの出題で、現代史まで手が回っていたかどうかで差がつく問題でした。
問6はグラフをみて解答する問題でしたが、核拡散防止条約(核不拡散条約、NPT)と中距離核戦力(INF)全廃条約が締結された時期を把握しておく必要があり、難度が高い問題でした。
新高3生・高2生へのアドバイス
今年度の本試験も、これまでと同様に、文字資料をはじめとする「資料を伴う」問題が多数出題されました。
来年度から「世界史B」は「歴史総合、世界史探究」という新しい科目になりますが、文部科学省が公開している試作問題でもこれまでと同じような形式の問題が出題されているため、来年度以降もこの傾向は続いていくと考えられます。
過去問題等を通じて、独特な問題形式に慣れておきましょう。
また今年度も、単純に用語名を覚えているだけでは太刀打ちできない問題が多数みられました。
その用語の意味・内容や、各時代・地域の歴史の流れ・社会情勢までしっかりと理解しておく必要があります。
「歴史総合、世界史探究」は、従来の「世界史B」と大きく異なる点として、大問の1つが歴史総合からの出題になる点が挙げられ、試作問題では歴史総合の日本史分野からも出題されています。
ただ、日本史分野について求められている知識は中学歴史程度の易しいものであるため、高校の歴史総合の授業の内容をしっかりと復習すれば問題ないでしょう。